GANRYUを率いたデザイナー「丸龍文人」とは?活動の痕跡を辿る
惜しまれつつブランドを終了した「GANRYU」。約10年間率いたデザイナー「丸龍文人」は、1年以上の時を経た2018年に、自身の名を冠したブランド「FUMITO GANRYU」としてデビューをし、以降注目を浴びています。sacaiやTOGAなど東京発で大人気ブランドのデザイナーにはCOMME des GARCONS出身の方が多くいますが、彼もまたCOMME des GARCONS出身のデザイナーの一人です。
COMME des GARCONSの川久保玲氏にも実力を認められた丸龍文人氏とは一体どんな人物なのか?この記事では、デザイナー丸龍文人のCOMME des GARCONSやGANRYU時代の活躍を振り返り、新たにスタートしたFUMITO GANRYUとGANRYUの違いについて解説していきます。
デザイナー丸龍文人の経歴について
COMME des GARCONSは日本が誇るモードブランドあり、デザイナーの登竜門的な存在でもあります。かつて在籍していたデザイナーらは、現在の日本のファッションシーンを牽引している名だたる人達です。その中の1人である丸龍文人。最年少でいかにして自身のブランドをCOMME des GARCONSグループで立ち上げたのか。そんな彼の経歴をご紹介します。
出典 bgfashion.net
COMME des GARCONS社最年少デザイナーへ
1976年、福岡県に生まれます。デザイナーを志し、文化ファッション大学院大学へ入学。類稀なる才能は学生の頃から発揮されていて、在学中に学生を対象とした日本最大級のファッションデザインコンテストである「YKKファスニングアワード」の第3回目優秀賞を受賞します。「機能美と美機能」をテーマに「布にファスナーを縫い付けるのではなく、ファスナー自体に布を縫い付ける」といった斬新なアイデアを提案。彼の当たり前を覆すイノベーション力はすでに評価されていました。
2004年に卒業。そして「COMME des GARCONS」へ入社します。渡辺淳弥率いる「JUNYA WATANABE COMME des GARCONS」の下、パタンナーを担当。自身のスキルにさらに磨きをかけました。
そんな中COMME des GARCONSの生みの親である川久保玲の目に止まり、丸龍文人は「ブランドをやってみないか?」と誘いを受けます。これは彼が入社してからたった4年後の出来事でした。
「GANRYU」をスタート
川久保玲に才能を見出された丸龍文人は2008年に「GANRYU」を立ち上げます。会社のレーベルとしては4人目で、最年少デザイナーになります。その時の彼は「自分に任された理由をすごく考えた」とVOGUEのインタビューで語っています。
先頭に立ってモード界を牽引するCOMME des GARCONSにGANRYUは何を提案できるのか。会社におけるニッチなデザイン。考え抜いた彼が導き出したのは「ストリート」でした。
今でもストリートテイストはどのジャンルとも融合してトレンドになっていますが、当時のモード界にストリートという要素は希薄でした。ストリート、そしてロック調のエッセンスを加えたGANRYUはCOMME des GARCONSグループの中でも一際異彩を放っています。
彼自身「芯はストリートではあるんですけど、それをアウトプットするわけではない」と発言していて、ストリート色を全面に押し出したブランドではなく、カジュアルなウェアとして発表しています。
GANRYUとはどんなブランド?
満を持してスタートしたGANRYUのコンセプトは「ポップと前衛とベーシック」。COMME des GARCONSの世界観は保ちながらも、よりブランドの枠を広げるように丸龍文人なりのカジュアルさを展開しています。
会社におけるニッチなデザインとしてストリートはもちろん、彼自身がラウドロックやスケートカルチャーを好んでいたのでアイテムには随所にそのテイストが見受けられます。
COMME des GARCONSらしさはしっかりと受け継がれていて、別布で切り替えデザインが施されたアイテム、そしてサルエルパンツはGANRYUのアイコン的パンツとも言えます。ブランド全体を通してパンツのシルエットは基本的にゆったりとしたのが特徴ですが、トップスやアウターには割とかちっとしたアイテムをリリースしており、遊び心のあるスタイリングを提供しています。
2013年には東京にて「VERSUS TOKYO」と呼ばれるショーに参加。 COMME des GARCONSと名のついたブランドが東京でショーをするのは14年ぶりで、多くのファッショニスタの注目を集めました。このショーでもサルエルパンツの存在感は抜群。濃紺のブルーデニムを素材に、様々なスタイリングが披露されました。テーラードと軍物のモッズパーカーを合体させたジャケットは彼ならではのセンスが光ります。
「正体不明」というテーマを元に行われたGANRYUのショー。そのテーマ通り良い意味でCOMME des GARCONSさを感じさせなかったと評されていて、これは丸龍文人が兼ねてから考えていた「ニッチなデザインを用いた差別化」を上手に表現できていた証でもあります。
足し算と引き算が考えられたコーディネートを彼は意識していて、それがコレクションの発想にも投影されていました。「どういった組み合わせがありえないか」ということに重きを置き、対照的な要素を使ってどれくらい腑に落ちる組み合わせが作れるかを試行錯誤していたと語っています。
それが丸龍文人というフィルターを通すことで絶妙な好バランスを保ち、COMME des GARCONSファンも納得のGANRYUは約10年間にも及ぶ歴史を作りあげていきましたが、2017年SSのシーズンで終了。それと同時に彼はCOMME des GARCONSを退社します。
「FUMITO GANRYU」としてデビュー
理由も明かされないまま休止に至ったGANRYU。彼を待ち侘びる多くのファンはしばらく静観することを余儀なくされました。そんな中、1年以上の時を経て丸龍文人はデザイナーとしてイタリアの展示会に、自身の新たなブランドと共に参加することを発表します。それが「FUMITO GANRYU」です。
デビューのきっかけは?
イタリア・フィレンツェで年2回行われる、世界最大級のメンズプレタポルテの見本市である「PITTI IMMAGINE UOMO」。そこへFUMITO GANRYUとして、2018年にデビューを果たします。丸龍文人の復活は大きな話題となり、初コレクションには日本から多くのメディアや関係者が訪れました。
ルックは全体的にモノトーンでまとめられていて、随所に発色の良いレッドやブルーといったカラーを差し込んでいます。デザインに関しては彼が得意としているストリートやロックを織り交ぜたテイストとは少し違って、ミニマルな印象に。アイコン的存在であったサルエルパンツの登場も控えめになっており、ややモードな雰囲気が高め。GANRYUとの差別化がしっかりと図られています。
ですがボリュームを持たせたアイテムは健在。パルクールからインスピレーションを受けたゆとりのあるパンツや海外のレディースの古着パジャマの横幅に生地を追加した、XXLサイズにもなるトップスがあったりと彼のセンスはきちんと反映されています。
今回はテック要素が多く見られ、防水・防風のネオプレーン生地や速乾性のあるラッシュガード用の生地、止水テープといった機能性十分なディテールをデザインに落とし込んでいます。
イタリアで華々しい初デビューを飾ったFUMITO GANRYUですが、元々このような独立を見据えてCOMME des GARCONSを退社した訳ではなく、当初はファッション以外の分野のビジネスをやりたかったと彼は語っています。新規事業の準備を始めていたところ、思わぬ形でアパレルをもう一度やる機会が巡ってきて「これは逃せない」と新ブランドの立ち上げを決意。セカンドシーズンではパリコレクションに参加しており、ブランドは順調な道筋を辿りました。
「21世紀に必要な服」
出典 eyecmag.com
FUMITO GANRYUでは「21世紀に必要な服」をコンセプトに毎シーズン、その瞬間に必要だと感じた要素をコレクションに投影しています。快適さや洗いやすい扱いの良さといった意味以上の「機能性」を必要不可欠としていて、丸龍文人はそこに「環境への接し方」も取り入れています。
ファッション業界に課題としてしばしば取り上げられる大量廃棄などの環境問題。環境を破壊してでも成長してきたのが20世紀だとすると、21世紀はその影響をもろに受けている時代で、そこを理解した上で改めて環境へ目を向ける。それはつまり「自然・地球を大切に考える」ということ。彼は「その考えが全員の前提になること」が、今の時代におけるスマートな生き方だと語っています。
エコな素材を採用した服作りは素晴らしいと前置きをしたあと、FUMITO GANRYUではそこに着目はしておらず、あくまで自然からキーワードをピックアップし、それを用いて服を作るとも語っています。
実際に初コレクションでは「水」をテーマにしていました。分かりやすい表現方法として防水を取り上げていて、前述したネオプレーン素材はレインウェアとしても活用することができます。止水テープに関しては機能性はもちろん、デザインにおいてもテック感をあらわすに十分なアクセントとなります。
そして接触冷感が備わっているラッシュガード生地は速乾性があり、まさに水と触れ合うには重要なファブリックです。彼は「そのようなキーワードをテーマにした服を纏う人たちに、自然と触れ合うきっかけを提供し、環境のために自分自身でできることをやろうというマインドになってもらえたら」とインタビューで発言しています。
またブランドとしてニュートラルな服作りを常に目標としていて、様々な要素の取捨選択を経ると結果的には「性別に関係ないユニセックスなデザインになっていくのではないか」と彼は予想しています。
「FUMITO GANRYU」と「GANRYU」との違いは?
以前はストリートな側面が強くありましたが、ハイテク素材を用いてモードとスポーツをミックスさせたテイストや、ポップな色使いのデザインがFUMITO GANRYUからは見られます。テック感も強めに表現されており、非常にトレンド感度の高いワードローブを展開しています。
丸龍文人は過去と現在の、自身のブランドにおける違いとして「ラグジュアリーさ」を挙げています。COMME des GARCONS在籍時代に立ち上げられたGANRYUではブランドポジションを踏まえて、「ラグジュアリーさは全く意識してこなかった」と言います。当時は彼自身に与えられた使命として社内におけるニッチな「ストリート」を選択していました。
ですがFUMITO GANRYUではそのラグジュアリーさを積極的に取り入れており、そこには「表層的なもの」と「精神的なもの」の2種類あると語ります。1つ目は文字通り、高級感のあるクオリティーが高い装飾品をデザインに盛り込むといった表現。2つ目は目には見えないが心にゆとりを生むようなクリエイションとして表現しています。これはラグジュアリーを「高級なもの」と捉えるより、「贅沢な時間」として捉えた方がいいかも知れません。
実際に彼がコレクションで行ったクリエイションとしてこういうものがあります。2020年SSパリコレクションでは自然転写がパターンされた服が発表されました。その意図は自然を服にデザインすることで、SNS等で他人から生活を見られることが当たり前の窮屈な現代から、少しでも忘れることができるようにと想いを込めての採用でした。現実世界から脱却することで生まれる、心のゆとりをラグジュアリーとして表現しているのです。
FUMITO GANRYUが提供するラグジュアリーさは決して形あるものとしてだけでなく、着る人が心地良いと思える、そんな意味合いがあります。
センセーショナルな代表アイテム
FUMITO GANRYUが展開するアイテムを3つご紹介します。どれもブランドを語るに欠かせないアイコン的存在であり、毎シーズンのアップデートに注目が集まります。
2019年FWで登場したダッフルコート。大きく身体を包み込むようなオーバーサイズが特徴的。ドルマンスリーブのゆったりとしたテイストはジェンダーレスに活躍できます。またロングコートとなると重量を懸念する人も多いと思いますが、それは丸龍文人のクリエイティブ力によってストレスフリーとなります。
表地にウール、裏地はメッシュ生地を採用し、従来よりも軽量化に成功しました。またメッシュ生地は通気性があって着心地も良く、衣類に機能性が必要不可欠と捉える彼の理念に沿ったアイテムと言えます。
モッズシャツ
ライトアウター感覚で羽織ることのできるM-51モッズコートを元にしたシャツ。トレンドにフィットしたボリューム感があるので、1枚でも十分様になるスタイリングが可能。
このモッズシャツはカラーバリエーションが豊富でブラック・ホワイト・チェック柄・ストライプ柄や袖が切り替えられたパターンも揃えられています。また毎シーズンリリースされているということもあり、FUMITO GANRYUのアイコニックなアイテムです。
サルエルパンツ
GANRYU時代から丸龍文人がこだわり続けているサルエルパンツ。もちろんFUMITO GANRYUにおいても人気のアイテムとして位置付いています。シーズンごとにアップデートを重ねており、ユニークなデザインが特徴です。
定番の濃紺やホワイトのデニムはもちろん、クラッシュやリペア加工されたタイプがありファンを飽きさせない着想がされています。新たにスタートしたRED LABELではアシンメトリーで構成された遊び心あるデザインも登場しており、その絶妙なパターンは元パタンナーとして経験を積んだ彼だからこそ成せる技だと言えます。
まとめ
最後までお読みいただきありがとうございました。COMME des GARCONSで1から10を学んだと言う丸龍文人。目の前のことを真摯に取り組む彼は、社内において自分に求められていることを的確に捉え、それによって会社に大きな飛躍をもたらしました。独立後もそのスタンスは変わらずFUMITO GANRYUのビジョンはもちろん、未来のために「環境への接し方」までも捉え、時代に合わせた進化を行っています。今後の活動にも期待が高まります。
また、モードスケープでは、FUMITO GANRYUのアイテムのお買取りを強化しております。 買い換えのタイミングやサイズの変化によって合わなくなることなどもあるかと思います。そんな時に、モードスケープにご相談していただければ全力でお力になります。 古いモデルやクリーニングやお直しが必要なものでも可能な限り良いお値段をおつけできるように吟味しながらお買取りしております。汚れやダメージがあるものでも、リペアを施して販売することも可能ですので一度ご相談ください。とりあえず値段だけ聞いて検討したいという場合は、LINE査定などで査定額を見積もることも可能です。お気軽にご相談ください。
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GANRYUの買取について
この記事を書いた人
小川剛司 (MODESCAPE 編集部)
ライター・ファッションモデル。学生時代のアルバイトからファッションの世界へ。大手セレクトショップの販売員、ECスタッフを経て、長年携わったアパレルの経験と知識を活かしWEBライターに。数々のファッションマガジンサイトで執筆を行い、メンズ・レディース問わずおしゃれを発信しています。現在は韓国を拠点にモデル活動しており、更なるファッション知識を探求中! Instagram:@t_t_k_k_s_s