ブランドのDNAを受け継ぐ「シェミナ・カマリ」による新生Chloeが始動
フランスの名門ファッションブランド「Chloe」ですが、歴代デザイナーにはカール・ラガーフェルドはじめステラ・マッカートニーやフィービー ファイロといった名だたるデザイナーが多数存在します。また、2023年まで務めた「ガブリエラ・ハースト」は、サステナビリティに重点を置き、ラグジュアリーブランドで初めて「B Corp認証」を取得し業界にインパクトを残したデザイナーもいます。そして、2023年秋より新たに就任したのが「シェミナ・カマリ」。カマリとChloeは切っても切り離せない存在であり、デザイナー就任する20年以上前にもChloeで活躍した人物なのです。 そんなシェミナ・カマリですが、どのような生い立ちやデザイナー歴を持っているのでしょうか?
この記事では、シェミナ・カマリの人物像とこれまでのキャリアを解説していき、コレクションデビューした新生Chloeについて見ていきます。また、Chloeを牽引してきた歴代デザイナーも紹介しますので、是非最後までご覧ください。
Chloeの起源と歴史
Chloeの由来は「ダイフスとクロエ」というバレエ音楽からきています。若い男女の恋物語で、主人公クロエが初々しくも美しくダンスするイメージをブランドに投影しています。
出典 chloe.com/jp
はじまり
Chloeは「ギャビー・アギョン」が1952年にフランスで創業したことからスタートします。彼女はエジプト・アレクサンドリアで貴族として生まれながら幼い頃からフランス式の教育を受けていました。母親がファッション好きで、パリでトレンドの洋服を好んで身に付けていたため、ギャビー・アンギョンもまたフランスのカルチャーに惹かれていくことになります。18歳になる頃にフランス・パリへ留学。そこで出会う芸術家やファッション、自身の地元とは違った魅力的な街並みに触れることで、豊かな感性にさらに磨きをかけることになります。
そして31歳にChloeを立ち上げ。テーマは「ラグジュアリープレタポルテ(贅沢な既製服)」。1950年代、富裕層や上流階級の人々はオートクチュールで作られた洋服を身に纏っていました。その反面、一般層ではコピー商品やプレタポルテしか選択肢がなく、品質の面においてもあまり上質なものではなかったと言います。
だからこそ彼女は、そのような閉鎖的で一部の層しか楽しめないようなファッションカルチャーを壊し、誰もが高品質な洋服を着ることができるようなブランドを立ち上げたかったのです。そんな時代背景の中、発表されたChloeのテーマはプレタポルテの草分け的存在で、とても新しい概念でした。
1956年には自身もよく通っていたパリの「カフェ・ド・フロール」にてファーストコレクションを発表。ブランドとして大きな飛躍をしてくのかと期待されましたが、知名度はそこまで上がらずに低迷していました。
そんなChloeを世界的に有名ブランドへと引き上げたのがデザイナー「カール・ラガーフェルド」の存在です。のちに「CHANEL」や「FENDI」でも活躍する彼を、デザイナーとして招き入れた1964年から売り上げを伸ばし、スイスのグループ会社「Richemont」の傘下に入ることで世界的販路も獲得しました。
2001年にはChloeのカジュアルラインである「SeeByChloe」をスタートさせます。メインラインのコンセプトは踏襲しながら、価格帯はリーズナブルになっていて、より幅広い層へのアプローチとなりました。
その後もブランドのアイコンバッグ「パディントン」が生まれるなど、創業から半世紀以上経った今でも世界中でファンを増やして続けています。
Chloeの歴代デザイナー
Chloeでは歴代で多くのデザイナーが在籍し、全員がブランドの飛躍に貢献してきました。特筆すべきデザイナーをピックアップしてご紹介します。
ブランドが創業した1952年にデザイナーを勤めていたのが「ギャビー・アギョン」「ジェラール・パピール」「ミシェル・ロジェ」の3人です。当時のファッション背景の真逆をいく「ラグジュアリープレタポルテ」の提案は斬新なものでした。
出典 wwd.com
1964年から、前述したカール・ラガーフェルドをデザイナーに起用することでブランドは大きな飛躍を遂げます。Chloeでデザイナーを務める前から、当時オートクチュールで最高峰のレベルであった「Balmain」で3年間アシスタントとして働いていたり、「Jean Pato」で経験を積んだキャリアがあります。実はChloeでは2度デザイナーとして働いており、それが初めの1964年〜1983年、そして1992年〜1997年の計24年間です。同時期にFENDIとも契約をしており、彼のデザインセンスは会社に大きく貢献しました。
1998年、カール・ラガーフェルドの後任としてクリエイティブ・ディレクターに任命されたのが「ステラ・マッカートニー」です。ロンドンの芸術大学である名門「セントラル・セント・マーチンズ」卒業後すぐにChloeのデザイナーに抜擢。
デザイナーとしてキャリアが少ない状態で入社した訳ですが、彼女はしっかりと結果を残します。今までのムードであった重厚なラグジュアリーさは残しつつ、よりフェミニンな方向へシフト。女性らしさをテーマとしたデザインは多くの支持を受けました。
出典 thegentlewoman.co.uk
半ばヘッドハンティング気味に2001年、「GUCCI」へ移籍。彼女の後を継いだのが同大学出身で親交もあった「フィービー・ファイロ」でした。元々ステラ・マッカートニーのアシスタントとしてChloeで働いていた彼女が、クリエイティブ・ディレクターとして舵を取ることになります。デザイナーとして無名だったフィービー・ファイロはChloeで様々なアイデアを輩出。カジュアルラインである「SeeByChloe」を立ち上げたり、アイコンバッグ「パディントン」を発表したりと、7年もの間活躍し続けました。
ですが子どもの育児やプライベートの時間を確保するためデザイナー業を1度休止。「CELINE」で再びクリエイティブ・ディレクターに就任した際には「フィービー期」と呼ばれるほど、ブランドの盛り上げに貢献しました。
出典 interviewmagazine.com
2011年から約6年に渡りChloeで活躍したのが「クレア・ワイト・ケラー」です。「CALVIN KLEIN」や「RALPH LAUREN」、「GUCCI」でのキャリアを持つ彼女は、爆発的人気を生み出したバッグ「マーシー」や「ドリュー」をデザイン。従来のテイストに少しマニッシュなエッセンスを付け加え、今までのとは違ったアプローチを得意としていました。
そして2023年、新たなクリエイティブ・ディレクターに以前Chloeでデザインチームとして在籍していた人物が就任することになります。
シェミナ・カマリの人物像
Chloeを3度経験しているシェミナ・カマリ。ブランドの伝統、熱意、スピリットがしっかりと受け継がれていて、さらにその他大手メゾンでも積んだ経験はChloeをより新しいステージへと引き上げてくれます。
出典 nytimes.com
セントラル・セント・マーチンズ芸術大学卒
新しいクリエイティブ・ディレクターとして2023年秋から就任したのが「シェミナ・カマリ」です。1981年、ドイツ・デュッセルドルフ生まれ。ドイツのトーリア大学で学士号を取得したあと、ステラ・マッカートニーやフィービー・ファイロも在籍していたロンドンのセントラル・セント・マーチンズへ入学。2007年に卒業をしますが、実はその間インターンとしてChloeでアシスタントをすることになります。
彼女は同じくドイツ出身のデザイナーであるカール・ラガーフェルドをとても尊敬しており、同郷のヒーローとして彼が勤めていたChloeで働きたいと強く思っていました。他の学生たちが様々なブランドにインターンの応募書類を何十通も送る中、彼女はChloeのみに応募。
アポイントも取らず直接パリにあるオフィスまで出向いたと言います。もちろん学生の急な来客に対応してくれる訳はなく、受付で断られましたが彼女は根気強く何時間もオフィスで待ち続け、最終的にはスタジオディレクターと面談することができました。その2週間後、正式にインターンアシスタントとしてChloeで働くことになります。
フィービー・ファイロ率いるChloe時代
Chloeの転換期とも呼ばれるフィービー・ファイロ、そして後のクリエイティブ・ディレクターになる「ハンナ・マクギボン」がいた時期に働いていたチェミナ・カマリは、多忙な日々をこなしながらも「ここが私の居場所」だと確信できるほど刺激的な日々を過ごしていたと言います。
デザインチームは常にあらゆるところからインスピレーションを得るようにアンテナを張っていて、それは過去の「VOGUE」も例外ではなく、1970年代に創刊されていたものからでも「当時のムード」をリサーチ。そしてファッションのみならず音楽やその他のカルチャーからもインスピレーションを吸収していました。
何十年と歴史があるChloeのスピリットはフィービー・ファイロを筆頭にチームに共有されていて、全員「どのようなデザインを体現するか」ということが合致していたと言います。ですがそこまで固執はせず、とにかく「女性として日常に着たい服を作る」をテーマに直感的・感覚的に作業が進められていました。
ブランドのコンセプトとして掲げている女性像は女性が「真似してみたい・そんな風になりたい」と思えるようなものであり、実際にChloeのショーのバックステージでは他のモデルたちがChloeのウェアを身に付けていたというほど、女性に寄り添い、共感を得るブランドになっていました。
ChloeそしてSAINT LAURENTへ
1度Chloeを離れますが、2013年に再びクリエイティブ・ディレクターを務めていたクレア・ワイト・ケラーの下で働くことになります。そして2016年からは6年間「アンソニー・ヴァガレロ」が率いる「SAINT LAURENT」のレディース部門のデザイン・ディレクターとして大きなキャリアを積みました。その後、トップモデルたちの愛用ブランドとしても知られるアメリカ・ロサンゼルスの人気ブランド「FRAME」でクリエイティブ・コンサルタントに就任します。
そして2023年、3度目となるChloeへの入社。そこで遂にクリエイティブ・ディレクターに就任することとなります。選抜の背景として、前任のガブリエラ・ハーストの際はChloeとの関わりのない新しい人材をあえてクリエイティブ・ディレクターに選んだと言います。
ですが今回はChloeでのキャリアがある人材が候補に上がったため彼女が選抜されたのです。Chloe転換期を経験している彼女にとって古巣とも呼べるブランドでのクリエイティブ・ディレクターへの就任は「自然なことだった」とインタビューで語っており、前向きな姿勢を見せています。
ちなみにSAINT LAURENT在籍時、提案したデザインをアンソニー・ガヴァレロに見せた際「それはフェミニンすぎる。Chloeのために取っておいたほうがいい!」というエピソードが。自身のキャリアを形成したと言っても過言ではないChloeのスピリットは、今もなお彼女に受け継がれています
シェミナ・カマリ率いる新生Chloe
ブランドの伝統を踏襲しながら、時代に見合った新たなエッセンスも取り入れたコレクションはとても話題となりました。そしてChloeが提案する環境に配慮した服作りにも感心、注目が集まっています。
出典 fashionista.com
近年見られるデザイナー就任の傾向
度々ファッション業界で議論されているのが、女性のクリエイティブ・ディレクターが男性に比べるととても希薄だと言うこと。女性に向けたプレタポルテコレクションであっても、男性がデザインしてきたというファッションの歴史があり、多様性を求める現代では賛否の声が挙がっています。
そしてChloeがクリエイティブ・ディレクター発表した際、他ブランドでは男性の着任が相次いで発表されたため、ファッション業界のインバランスさも話題に。シェミナ・カマリはこのことについて、「性別のせいで制限されるとは言えないが、女性はキャリアを重ねると家庭を持つか、持たないかという壁に直面する」と述べています。女性が大きな仕事を得ることは男性に比べると、いくつかの外的要因が影響するため難しいと言えます。
その分彼女に多くの期待が寄せられていて、ChloeのCEOからは「並外れた才能と豊富な経験、そしてブランド愛にインスパイアされた彼女が描くビジョンはChloeのスピリットを体現してくれます。」、「シェミナ・カマリがクリエイティブ・ディレクターに選ばれることは当たり前で、ごく自然な選択だった。」と称賛が送られています。
ラガーフェルドのビジョンを基に
2024年FWのパリコレクションに先駆けて、Chloeでは新しいブランドの世界観としてビジュアルを発表。幅広い年代、そして人種を問わない様々な国籍のモデルたちが、パリの街やエッフェル塔を背景に撮影が行われました。
「クロエ・ポートレート」とタイトル付けられたビジュアルには新世代のモデルたちはもちろん、1980年代にChloeで活躍したベテランモデルたちも名を連ねており、SNSや公式サイトで公開されています。実は写真に写るモデルたちのほとんどが、過去にChloeのコレクションでランウェイを歩いていたモデルたちで構成されています。
身に纏っているウェアはその直前の2024年1月、バイヤーに向けられたプレコレクションに登場したもの。生地使いやフェミニンながらもシックなスタイル、そしてカラーパレットはいかにもChloeらしいラグジュアリーで伝統を重んじたデザインに。
そして写真にはカール・ラガーフェルドのビジュアルを基に、1970年代のロゴからインスパイアされたフォントが添えられています。クラシックかつ繊細なタッチで表現されたロゴからは貫禄が溢れ、ムードをより高貴なものへとブラッシュアップしてくれています。
コレクションデビュー
2024年FWパリファッションウィークでコレクションデビューを果たします。Chloeのイメージであるパリらしさやフェミニンなテイストを体現したコレクションには「Chloeが戻ってきた!」と言われるほど、周囲の期待に応えたコレクションに。
3度に渡り、Chloeを支え続けたシェミナ・カマリがブランドのスピリットをしっかりと踏襲していて、随所に歴代のデザイナーたちを彷彿とされるデザインが見られました。特に創業者であるギャビー・アギョンが提示していた自由かつフェミニンなテイストは、シルクやシースルーの素材使いで存分に表現され、センシュアル(官能的)な面をアプローチしています。
前任のクリエイティブ・デザイナーであった「ガブリエラ・ハースト」が進めていたサスティナブルな取り組みも継続すると発言。実際、今回のコレクションに登場した毛皮は本物に見える人工ファーを採用していました。
日本ではあまり聞き馴染みはありませんが、Chloeは「B corp認証」を取得しています。これは環境への配慮、社会への公正等の様々なポイントに基づいた活動を行い、高い評価を得た企業だけに授与される認証ラベルのことです。サスティナブルやエシカルといった持続可能な社会が注目されるなか、ラグジュアリーブランドで初めてB corp認証を獲得し、話題となりました。
まとめ
最後までお読みいただきありがとうございます。名門セントラル・セント・マーチンズ大学を卒業し、フィービー期のChloeやSAINT LAURENTで経験を積んだデザイナー「シェミナ・カマリ」。Chloeで2度のキャリアからブランドのDNAを受け継ぐとともに、新しい解釈を融合させるシェミナ・カマリが手がける今後のChloeにも目が離せないですね。
モードスケープではChloeの買取を強化しています。アイテムの価値を適正に反映し、最高額を見出す査定をいたします。Chloeのアイテムを売りに出すか迷っている場合にも、是非モードスケープにご相談下さい。とりあえず値段だけ聞いて検討したいという場合は、LINE査定などで査定額を見積もることも可能です。お気軽にご相談ください。
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MODESCAPEでは、Chloeの買取を強化しています。現在では廃盤ですが大流行したパディントンや、2023年春夏コレクションでデビューしたペネロペなど、Chloeのバッグは年代問わず高価買取が期待できます。、査定金額アイテム一つ一つの価値を理解し適正な査定をいたします。お買い取りをご検討の際は、お気軽にご相談ください。
Chloeの買取について
この記事を書いた人
小川剛司 (MODESCAPE 編集部)
ライター・ファッションモデル。学生時代のアルバイトからファッションの世界へ。大手セレクトショップの販売員、ECスタッフを経て、長年携わったアパレルの経験と知識を活かしWEBライターに。数々のファッションマガジンサイトで執筆を行い、メンズ・レディース問わずおしゃれを発信しています。現在は韓国を拠点にモデル活動しており、更なるファッション知識を探求中! Instagram:@t_t_k_k_s_s