Araki Yuuのモノづくり:「ハンドメイド=責任」
自らの手で全ての工程を行う国内ブランド「Araki Yuu」をご存知ですか?取り扱い店舗や生産数は極めて少なく、即完売してしまうほど高い人気を誇るブランドです。大量生産をすること現在のアパレル業界では当たり前のことですが、このAraki Yuuというブランドは全くの正反対の方針を掲げています。Araki Yuuがハンドメイドにこだわる理由とは?
この記事では、ハンドメイドに対するデザイナーの想いを解説し、Araki Yuuにしか表現できないモノづくりへのこだわりについて紹介していきます。
Araki Yuuとは
日本のアルチザンブランドとして定評のあるAraki Yuu。ブランドを立ち上げたきっかけやモノづくりの姿勢には一貫した信念が見受けられます。また日本人クリエイターをプッシュするプロジェクトにも注目です。
デザイナー:荒木 勇
Araki Yuuを立ち上げる前までは衣料品の生産を行っている工場で勤務していました。そこでは大量生産・大量消費という服づくりがされていたため、荒木氏はその資本主義的なシステムに疑問を持っていました。決してその工場だけがそういう訳でなく、現在におけるアパレル業界全体が必要以上にエネルギーを浪費している状況であり、その現実を見直した結果、彼は自身のブランドを立ち上げることを決心します。
「製作過程のすべてを自らの手で行う」という責任を持った理念のもと、Araki Yuuは2014年にスタート。具体的な設立時期は不明ですが、Araki Yuuのアイテムが初めて紹介されたのが2014年であるため、その頃に本格的にブランドが始動したと推測できます。
当初はシャツを中心としたアイテムが製作されていましたが、現在のルックではアウターやパンツ、小物類などフルラインナップで展開。シーズン毎に明確なコンセプトを設けている訳ではありませんが、ブランドの世界観は統一されていて重厚感のあるテイストに。取り扱うショップも着実に増えつつあり、注目を集めるブランドへと成長しました。
流行にとらわれない
通常、ブランドがシーズンのルックを製作する際、何かしらのコンセプトやテーマとともにそのアイテムたちを発表しますがAraki Yuuでは前述したように、シーズン毎のコンセプトを設けてはいません。一貫したAraki Yuuの雰囲気があり、ジャンルとしては「アルチザン」に分類されます。
アルチザンとはフランス語で職人や技工という意味があり、アパレル業界では「大量生産でなく、職人が素材や縫製に拘り抜いて作ったアイテムのブランド」を指します。使用される生地や染め方、縫製のどれを取っても量産することはできない製法であるため、良い意味でも悪い意味でもデザイナーの個性が強く押し出されます。そのためブランドによっては個性が全面的にあらわれるので、他のブランドとスタイリングすると「アイテムが浮いてしまう」こともアルチザン系ブランドの弊害と言えます。
ですがAraki Yuuに関しては、製法はアルチザン系であるものの「全体のまとまりの良さ」があり、シンプルで小綺麗なアイテムといった印象があります。日常に溶け込んでくれるデザインのものが多く、単体でアイテムを見たときのインパクトもありながら幅広いコーディネートにもすんなりとフィットしてくれるポイントが、ファッション好きに強く支持される理由でもあります。
ディティールの特徴
ヨーロッパのワークウェアからインスパイアされたアイテムが多く、クラシックな印象やヴィンテージライクなムードがあります。またブランドの信念のもと、アイテムの至るところのディテールは手縫いで行われています。
例えばボタンホール。機械を使えば通常数秒ほどで仕上げることのできる作業も手縫いしており、10分以上の時間がかかっていると推測できます。その分とても綺麗かつ繊細な仕上がりで、Araki Yuuらしさを感じることができます。その他にもブランドタグや品質表示タグもすべて手縫い。特に品質表示タグは表側に取り付けられており、ロゴマーク等がないAraki Yuuにとってシグネチャーのような意味合いも持っています。
ディテールでもう1つ注目したいのが「ステッチの運針数」です。運針数とは縫い目の数のことを指し、その数が多いほど細かく縫われているため技術力が高く、見た目の綺麗さにも顕著にあらわれます。大体3cmの間でどれほどの運針が入っているかが目安とされていて、言わずもがなAraki Yuuのシャツの運針数は手縫いにも関わらずかなり多く、それだけ丁寧で繊細なモノづくりがされていると言えます。
実はAraki Yuuのアイテムには1点1点ナンバリングされており、その数字は現在2600を超えています。その膨大な量を全て手作業で製作したクラフトマンシップにはリスペクトを送らざるを得ません。
Made by Hand
2016年FWから始まった、Araki Yuuとのコラボレーションを通じて「日本人クリエイターによる手作業でのモノづくり」を発信しているプロジェクト「Made by Hand」。NAOKO WATANABEとのコラボレーションではレザーサスペンダーをリリース。 イタリアンカーフスキンを採用しており、キメの細かさや絶妙な厚さは牛革の中でも最高品質に位置しています。波打っているようなレザーは経年変化も楽しめ、サイズフリーなためユニセックスで使うことが可能です。
神戸にシューメイカーとしてアトリエを持つSUGINARI MORIMOTOとのコラボレーションではダービーシューズやサイドゴアシューズを発表。日本のクリエイターが作る、日本人の足型にフィットするシューズが完成しました。単なるコラボレーションではなく、もはや共作とも呼べるプロジェクトです。
〇〇への拘り
Araki Yuuでのモノづくりは、作業工程をはじめとして、選定する素材や生地に至るまで徹底的な拘りが見られます。ブランドの魅力となるその要素をいくつかご紹介します。
出典 arakiyuu.com
オールハンドメイド
「責任のあるモノづくり」の意識が荒木氏自身の根底にあるAraki Yuu。大衆的なブランドのような機械による大量生産は行われていません。立ち上げの際に掲げた「製作過程のすべてを自らの手で行う」という理念のもと、発表されるアイテムたちはどれも手作業で制作されています。
そのため1シーズンで作れる服は大体150着ほど。ボタンを付ける作業においてもミシン等は使用せず、手縫いで装飾をしています。効率を重視する現代社会において、このような服作りは一見すると非効率にも思えます。それでも手作業にこだわる理由は荒木氏が以前、大量生産を行う工場に勤めていた際「自分が責任を持って服を作りたい」と考えるようになったからです。
彼のアトリエ兼自宅ではパターン作成や縫製・装飾、さらには梱包や発送業務まで自身で行っています。染色に関しても彼がハンドメイドで染め上げていて、Araki Yuuにはカラー表記「ダーク」があります。これは独自のカラーで、限りなくブラックに近い濃い色をあらわしています。光の当たり方次第ではグレーやグリーンにも見えるユニークな色合いをしていて、アイテムの魅力をワンランク上へと引き上げてくれています。
ブランド独自の生地
Araki Yuuは元々、糸から生地を作り上げる職人を意味する「機屋」と共同でブランドをスタートした経緯があります。そのためにAraki Yuuで使われている生地はその機屋で制作されたものであり、他のブランドや卸業者へと出回ることがありません。ゆえにブランド独自の「オリジナルの生地」と言えます。そんな唯一無二の生地をいくつかご紹介します。
生地 | 特長 |
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タイプライター | 世界3大コットンの1つとして挙げられる、エジプト綿最高峰の「GIZA45」。その後継である「GIZA96」を用いて織ったタイプライター生地。 生地の目が分からないほどの高密度で打ち込まれており、繊細な表情と張りは特別な印象を与えてくれます。 |
Super 140’s wool | 繊維の細さをあらわす数値「Super 140’s 」。これはウールの中でもトップクラスに細く繊細であり、カシミヤと同等とされています。 ウールのチクチクとした肌触りを感じさせず、柔らかなタッチを実現しています。 |
アレクサンドラツイル | ウールとコットン、そしてアルパカを合わせた混紡生地「アレクサンドラツイル」。 元々は高級な裏地として用いられていましたが、それを表地として使用。毛足の長いアルパカの毛糸が起毛感を表現しており、カジュアルな印象に。 |
ヘリンボーンツイード | 経糸にローシルク、緯糸にウール・カシミヤの混紡毛糸に加えてリネンで織り上げた「ヘリンボーンツイード」。 ファーのようにも見える滑らかな毛並みと手触りに。また強弱を付けて織ることで生地の表情も変わり、独特な雰囲気を醸し出しています。 |
リネン | 糸の太さが異なる2種類のリネン毛糸を使って織ることで、従来のものとは一味違うリネン生地へと仕上がっています。 ドライな質感ではなく、フランネル生地のような起毛感があり繊細な風合いに。 |
シルク | 「シルクなのに洗える」を実現したAraki Yuuのシルク生地。 テロっとした光沢のあるものではなくウールライクな仕上がりは、ブランドの世界観ととてもマッチしています。 |
真鍮ボタン
Araki Yuuを語るにかかせないのが「ボタン」。ボタンは服の一部に過ぎないと考えるかも知れませんが、ボタンに対するこだわりを知ることで、荒木氏がどれほど丁寧に服を作り上げているかを理解することができます。
Araki Yuuで使用されるボタンは真鍮製です。真鍮とは銅と亜鉛を混ぜた合金で、亜鉛の含有量率で色合いにも変化が生まれます。また酸化していくことでアンティークなムードが増し、経年変化も楽しむことができるという魅力があります。実は彼の実家が鉄工所を営んでいたということをきっかけに、真鍮を用いたボタンを取り扱うようになりました。
パーツの削り出しや成形・バリ取りといった工程は1つ1つ手作業で行われており、同じデザインのボタンは存在しません。2019年からは水牛の角を使用したボタンも扱うようになり、さらにバリエーションの幅が広がりました。
人気アイテム
こだわりを持って作られるディテールやそれに見合った上質な素材選びは必見。Araki Yuuの人気アイテムをご紹介します。
アトリエコート
Araki Yuuの初期からリリースされているアトリエコート。薄手の作りをしており、軽く羽織ることのできるライトアウター的な立ち位置でブランドのアイコンともなる代表アイテムです。シーズンによって採用される素材も違い、定番アイテムゆえ様々なバリエーションで展開されています。カシミヤの中で最高級とされるアラシャンカシミヤを使用することもあり、その肌触りはしっとりとした贅沢なものになっています。フロントに装飾されるボタンは荒木氏によるバリ取りや、時にはコーティング加工が施されるため、1つ1つの表情が異なります。
ジャーキンジャケット
ジャーキンとは16世紀イギリスの宮廷服として着用されていたベストのことで、身体に沿うような細身で腰丈のシルエットをしていました。「ジャケットの元祖」と呼ばれるそのアイテムを、Araki Yuuらしさを詰め込んだジャーキンジャケットとして発表しました。アトリエコートと並び人気のあるジャケット。ラペルが無く立ち襟のディテールはスタイリッシュな印象を与えてくれます。胸ポケットやスクエアのパッチポケットを付け加えることで、ワークジャケットに見られるようなな機能性を持たせています。
ラウンドネックベスト
首元が丸く曲線を描いたベスト。それだけでなくスリットや前見頃の裾部分にも同様のカッティングが見られ、徹底したこだわりを感じさせられます。胴部分をスリムフィットさせながら、裾に向かってやや余裕のあるシルエットに。レイヤードスタイルはもちろん、1枚で羽織っても十分主役になってくれる万能なアイテムです。Araki Yuuではコットンとリネンを用いた混紡素材のバージョンや、アルパカ糸で作られるヘリンボーン織のバージョンもあり多彩なラインナップで展開しています。
レギュラーカラー/ノーカラーシャツ
定番かつどんなスタイリングにも合わせやすいレギュラーカラーシャツ。ウエストに向かって身体にフィットしてくれる作りになっており、反対に裾部分ではゆとりを持たせています。これによって1枚で羽織っても立体的なフォルムを実現し、コーディネートに奥行きを与えてくれるのです。
Araki Yuuが展開するシャツでレギュラーカラーと同じく人気なのがノーカラーのタイプ。すっきりとした首元にはクリーンでミニマルな印象があります。ざらざらとした肌触りの生地と切りっぱなしのディテールからは、アルチザンブランドとしての風合いを感じることができます。
バギーパンツ
ヒップから裾にかけて袋のようにワイドなシルエットが特徴のバギーパンツですが、Araki Yuuでは裾部分にボタンとベルトが装飾されています。裾を絞ることで美しいテーパードシルエットが完成し、1枚のパンツで2種類の表情を楽しむことができます。後ろのウエスト部分にはサイズをアジャストすることのできるギミックが搭載されているので、ベルト無しでも着用可能。バックルには真鍮素材が使われています。SSとFWによって裏地の有無が分けられているのもポイント。Araki Yuuを代表するパンツです。
ニッカボッカーズ
2021年からAraki Yuuに加わった新しいパンツであるニッカボッカーズ。かつては軍服にも使用され、現在では土木仕事の作業服として知られていますが、それをファッショナブルにアップデート。バギーパンツとは違い丈感はやや短く、八部丈ほどになっています。展開される生地はウールやコーデュロイというような様々な種類があります。中でもコーデュロイはカジュアルでワーク色の強い生地でありながら、カシミヤを混紡させることで滑らかで上品な質感を演出させています。スポーティでアクティブな一面もあるニッカボッカーズはブランドの世界観を広げた1枚とも言えます。
まとめ
最後までお読みいただきありがとうございます。洋服作りの工程をすべてご自身の手作業、また生地にいたってはブランド独自の生地の開発など、洋服作りに対するデザイナー荒木氏自身の信念を感じられます。こうした信念から生まれるAraki Yuuのアイテムは、他のブランドにはない魅力や特徴が詰まっています。大変希少性の高いブランドですが、お店で見かけた際には是非こだわりのディティールや風合いを感じてみてください。
モードスケープではAraki Yuuの買取を強化しています。アイテムの価値を適正に反映し、最高額を見出す査定をいたします。Araki Yuuのアイテムを売りに出すか迷っている場合にも、是非モードスケープにご相談下さい。とりあえず値段だけ聞いて検討したいという場合は、LINE査定などで査定額を見積もることも可能です。お気軽にご相談ください。
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モードスケープではAraki Yuuの買取を強化しています。アトリエコートやジャーキンジャケットをはじめ、様々な素材で展開されるアイテムは春夏物・秋冬物問わずどの素材でも高価買取いたします。お買い取りをご検討の際は、お気軽にご相談ください。
Araki Yuuの買取について
この記事を書いた人
小川剛司 (MODESCAPE 編集部)
ライター・ファッションモデル。学生時代のアルバイトからファッションの世界へ。大手セレクトショップの販売員、ECスタッフを経て、長年携わったアパレルの経験と知識を活かしWEBライターに。数々のファッションマガジンサイトで執筆を行い、メンズ・レディース問わずおしゃれを発信しています。現在は韓国を拠点にモデル活動しており、更なるファッション知識を探求中! Instagram:@t_t_k_k_s_s